キュレーター羽田純のステートメント

それゆけ、図工女子!

100円台からというお手軽価格な「サクヒン」を、地べたやテーブルへキレイに並べ、びっしり並んだ屋台のような店構えで大量に会場へ流れ込んで来る客を迎えている。この手の『○○フェア』や『○○マーケット』的な名前のついた中規模以上の催しの数は今、地方を中心に年間で約180。一つのイベントが2~3デイズで開催となると、理屈的には一年中どこかで開かれているということになる。なるほど、どおりで昨今では種々雑多な「作家」や「クリエイター」と簡単に出会えるようになったわけだ。

しかし、これだけの数にもかかわらず、この手のリポートは『美術手帖』や『Art iT』で掲載されず、誌上ではあいかわらず今日もエッジの利いたシーンの紹介で占められている。そう、これらの場は「アート」や「クラフト」とは同姓同名で全く別ものな、巨大なだけでどうでもいい「村」だと認識されている。というか全然認識されていない。

そりゃそうだ。それらのイベントがもつ目的とベクトルは、実のところ殆どが大したコンセプトを持った何かではなく、単なる「町おこし」であり、寂れた商店街が望んだ「賑わい創出」の場でしかない。

「アート、クラフトで、まちに活気を!」的なスローガンをもって無責任な主催者達が仕込む投げ売りワゴンセールは、何もかもごちゃ混ぜでフラットなステージをひたすら乱立した。その結果、「きっと見つかる自分探し」みたいな空気を相対化し、表現者を無視しながら仕上がってしまった奇妙な「村」は、あまりにもワタシたち目線で、あまりにも身近で、あまりにも何者でもない、「あーてぃすと」たちを乱造してしまった。

それが「図工女子」のふるさとだ。カッコいい人たちの地図にはまだ載っていない村。彼女達はこの村で生まれ、育った。「図工女子」は単に“女子的な図工”ではない。アートやクラフトを形容する言葉でもない。

メインストリームから隔離された場所で人知れず生まれた「環境や事象」そのものを、ここでは「図工」と名付ける。「町」で得られるという高等な美術教育を受けた訳でもなく、特殊な環境で特殊な能力を醸造しながら、思うままに生きていくことを許された進化系現代っ子という意味だ。

図工女子は「絵」を描くし「モノ」を作るけど、ジェフ・クーンズや、ダミアン・ハーストや、村上隆を知らない。美術手帖なんて読まない。ぶっちゃけ自分のやってることを世間でアートだのクラフトだのと呼ばれようが呼ばれまいが別にどうでもいい。あ、でも奈良美智は知ってるし、蜷川実花は好きだ。

装苑やFUDGEはだいたい毎月立ち読みすると思う、そんな感じだ。ハイコンテキストなカルチャーは、この村までは届かなかったというか、 隠蔽されるように手に入りづらい距離感を作られ、彼女達の創作にそれらは殆ど必要の無いソースコードとしてプログラムされてきた。

では「図工女子」たちが持つ、創作に対するモチベーションは一体どういうものか。

・(私が)かわいい(と思う)ものが好き。
・私のほしいものが、どこにも売ってないから作ってる。
・お金は好き。でもたくさんはいらない(かせぐなんてむり)。
・楽しいからやっている。有名になるとか考えてない(有名とかむり)。

そう、つまり「好きだからやってるし、自分が欲しいと思うから作っている」という、直線的な行動原理と、ある意味明快な表現主義のスタイルを持っている。それでいて、普通に「女子」という一線は侵さない、パーソナル&絶対的な距離感をキープしている。

ちなみに「図工」と定義したこの村の住人のほとんどは、だいたい同じ思考でモノを作っている。本気で言っておくが、バカにしているんじゃない、というか僕も多分同じような村民だ。

「図工村」とは、言ってしまえばホワイトキューブの対極である。そこでは全ての作品が無力化し、全ての価値が分解される。「何を作るべきか」は無く「何をつくりたいのか」のみが奨励され、無制限ルール無し!好きにやっていいよ!という完全に自由な不自由が唯一のルールがそこにある。

まともな輩はそんな村ではとても生きてはいけない。目的を失い迷子になるか、どうでも良くなる。そんな世界で彼女達は、この自由という不自由さに強固な抗体を持ち、その不毛な村にセルフアイデンティフィケーションの余地を見つけることのできた、タフな存在なのだ。

価値観がスカスカな現代、補助輪付きのリテラシーが「町」ではウィルスのように蔓延してしまった。そんな中、彼女達の存在こそが真にビビット&きらびやかなくらいに非生産的で、ある種救世主のような心地よい安心感を持っている。

ただ、新たなムーブメントも、新たなカルチャーも、っつーかこれが本当のアートとかクラフトだ!なんて彼女達は思っていない。楽しい創作、それって最高!以上!って感じだ。だからこそ楽しい。

多分、これがどう発展してもマンガとかアニメとかゲームとかクールジャパンな国策コンテンツになるはずもなく、ギャル文化をギリかすめてはいても、大きな金が動くようなものではないだろう、そんなことはわかっている。

ただこれは、むちゃくちゃにローカルでパーソナルな空気が漂っていて、でたらめな道路の通っているような、誰もが無視してきた「図工村」で試みたフィールドワークだ。彼女達はその村の選手代表である。ビビットでキュートな蛍光ピンクの旗をプラプラ降って、村から超元気にやってきた。初めて出会う「町」にも動じず、きっと好き放題にその文明を見せつけ、飽きたらいつのまにか自分たちで帰っちゃうだろう。

「図工女子」は、僕たちの本当のリアルだ。

芸文ギャラリーキュレーター
羽田純

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